考えつくままの

美しい嘘をつき続けたい

カレーに関する記述

以下の文章は私のネタ帳にいくつか存在するカレーに関する記述である。

 

 私はカレーが好きである。食べ物として好きなのでなく、カレーという存在が好きなのである。カレーの雰囲気、カレーを作る人、香辛料、付属するラッシー。カレーを包むその他多くのものを私は好む。

 ついさっき、小説のネタを考えていて、またそこにカレーが出てきたので私は何故カレーが好きなのだろうかと疑問に思った。そして数秒の後に思い出した。私がカレーを好む理由も、高校時代にあったのである。

 高校時代の私は昼食に関して謎のこだわりがあった。それは毎日同じものを食べる、ということである。長期間毎日食べるわけなので三年間の昼食のレパートリーは格段に少ない。高校時代の昼食休みを思い返してみるとそこには百円そばとベーコンエピ、そしてカレーしかないのであった。そう、カレーである。ここに私のカレー好きの原点がある。また、カレーを食べ続けていた時期に弁当屋のラスイチのカレーを推しの日本史の先生に目の前で掻っ攫われたこともカレーへの愛を深めるきっかけになった。

 

カレーなぞ、二度と作らぬ。私は心に誓った。先週、ついにカレーを作ったのだが、盛大にカレーを腐らせてしまい、地獄を見た。キッチンと部屋を仕切る壁がない故に部屋には悪臭が立ち込めレポートでヘロヘロになった私にとどめの一撃を刺した。神よ、慈悲はないのか。

 基本的に私が悪い。常温でカレーを置いておくと腐るということを私は知らなかった。普通に考えると常温で放置したら腐るのは当たり前なのだが、実家では大きな鍋にカレーを作り、それを次の日くらいまでコンロの上に放置してあったのでそれが当たり前なのだと思っていた。カレーに含まれる香辛料が殺菌作用を持っていて腐らないのかと思っていた。私は考えた。悪臭の元凶であるカレーの前で考えた。ではあの実家のカレーは何だったのか。私たちは腐ったカレーを食べていたのか。私は怒りに震えた。今まで腐ったカレーを食べさせられていたという新事実とカレーを常温で放置すると腐るという常識を教えてくれなかった父と母に激怒した。ちょうど父と母、そして妹が私の家に遊びに来たので文句を言ってやった。すると母は「カレーを常温で放置したら腐るに決まってるだろ」と言った。そしてカレーを常温で放置したことなどないと高らかに宣言した。

 では私の見た常温放置カレーは何だったのか。幻だったのだろうか。幼き日にみるというイマジナリーフレンドの部類か。私の友は常温放置のカレーだったのか。謎は深まるばかりである。とにかく、カレーはもう二度と作らぬ。あの時調子に乗って購入したガラムマサラをもらってくれる人を大募集中である。

 

 最近やっとあの忌まわしき腐れカレー事件から立ち直って、カレーを作り始めた。会社名は忘れたが「赤缶」というカレー粉を買った。ついでに、金もねえくせにクミンと乾燥バジルも買った。そのくせターメリックは買わなかった。何故。

 話を戻すと、「赤缶」は数種類のスパイスが良い塩梅で調合されていて、私のような初心者でも簡単にスパイスカレーが作れる、という代物である。文明の発達に感謝。そしてインド文化の源たるインダス文明・ガンジス文明に感謝。

 私はウキウキでカレーを作った。やはり粉を使う方がバーモンドカレールーを使っている時よりもガチ感があって良い。カレー作りはとても楽しい。特に玉ねぎをみじん切りにする工程や、カレー粉、ガラムマサラ、クミン、ヨーグルトをぶち込む瞬間が「俺は今ガチのカレーを作っている」という気分を味わえて本当に楽しかった。また、カレーは赤かろうが茶色かろうが緑かろうが(?)トマトを使っている、という事実を知り仰天した。あの緑色のカレーのどこにトマトが潜んでいるのであろうか。カレーはトマトなしには存在し得ないのである。トマト万歳!トマト万歳!やはりナス科の植物はすごい。

 

 ふと、何かに熱中してみたいと思う時がある。それはアイドルとかアニメとか、そういう一般的なものでなくて「え?お前そんなのに夢中になってどうすんの?無駄じゃん」と言われるような、無駄で、少し世間からずれている見当違いなものである。今私の興味を悉く掻っ攫っていくもの………。例えばカレーである。高校の時から、カレーを極めた大学生になりたいと思っている。受験生の時はカレーを思い浮かべて必死に勉強したものである。カレーを研究し、3食カレーを食べ、謎の香辛料を買い求めて泊港のアジア物産店を彷徨い歩いてみたい。そんな日々を送って、トンチンカンな事件に巻き込まれてみたい。そう、例えば玄関の前に謎の福神漬けが置かれているような

 

(インドの場末のカレー屋にて)

 私は隣に座った男をまじまじと見つめた。どう見ても顔立ちは日本人である。しかし肌の色があまりに黄色すぎる。ターメリックライスのようだ。まるで黄色人種ここに極まれりというような感じである。もしかすると地球人ですらないのかもしれない。どこか遠い銀河の、ガーディアンズオブギャラクシーに出てくるような色とりどりの宇宙人の一人なのかもしれない。男は店主から渡されたラッシーを一気飲みすると、唐突に私の方を向き、言った。

「俺はカレーの仙人だ」

カレーの仙人はとても綺麗な日本語を話した。